【品質保証】長さのトレーサビリティについて

投稿日:2022年1月31日

設計図面の中で最も重要な要素の1つに寸法があります。

なぜなら寸法が入っていない図面では何も作れないからです。また、正しく製品を機能させるためには、図面に入れた寸法通りに部品が加工されている必要があります。

一般に部品を加工した後には必ず寸法測定を行いますが、正しく測定するためには、「トレーサビリティ」という考え方を理解しておく必要があります

もし、「トレーサビリティ」を理解せずに測定していると、測定結果が正しいと証明できないため、部品の品質を保証できないという問題に繋がることがあります。したがって、そのような問題を起こさないためにも「トレーサビリティ」についてよく理解して業務を進めることが大切になります。

1.トレーサビリティとは

1㎜はどこの工場でも同じ1㎜だと思っている人もいるかもしれませんが、実は違います。よって、工場Aと工場Bで長さが違っていたら、部品が正しく組み立てられず不良品ができてしまいます。

そこで、どこで測定してもほぼ同じ長さになるために確立しなければいけないのがトレーサビリティです。

トレーサビリティとは、使っている測定器がどのように国家標準とつながっているかを証明するものです。

わかりづらいので、具体的な例を挙げて説明します。

現場でよく使用されている測定器にマイクロメータというものがあります。マイクロメータは、ブロックゲージという参照標準で校正されます。

ブロックゲージは、特定二次標準を使ってレーザーの波長で校正されます。レーザーの波長は国家標準によって校正されます。

このように、ユーザーが使用する測定器を、最終的に国家標準につなげることを「トレーサビリティを確立」するといいます。トレーサビリティを確立することにより、測定結果が正しいと証明できます。

2.長さの国家標準とその歴史

トレーサビリティの頂点である国家標準とはどんなものでしょうか。現在の長さの国家標準は「協定世界時に同期した光周波数コム装置」です。

しかし、いままでに国家標準は何回も変わっており、国家標準という考えができる前は、長さの定義もあいまいなものでした。ここでは、長さの歴史を紹介します。

2.1昔の長さの基準はあいまい

参照元: メートル原器(出展(産総研)

昔の長さの基準は、人の体でした。尺や寸、ヤードやフィートなどは全て人の体のある部分の長さが基準になっています。

しかし、それでは人によって大きさが違ってくるため、世界的に長さを統一しようとなり、メートルという単位ができました。

最初の定義は、赤道と北極の子午線の長さの1000万分の1を1mにするというものでした。

時は流れ、メートル原器というものがメートルの基準になり各国に配置されました。しかし、メートル原器も不変的存在ではありません。経年変化や温度変化によって、長さが微妙に変わるからです。

そのため、各国で長さが微妙に違う状態が続きました。そこで、可変的な人工物ではなく、自然界にある不変的なものが検討されるようになりました。

2.2今の長さの基準は光速

1mの定義が、1960年にクリプトン放電ランプの波長の約165万倍になり、1983年からは光が真空中を約3億分の1秒に進む距離になりました。

これにより、国家基準は物質から光に変化しています。現在は、光周波数コム装置が長さの国家基準になっています

光周波数コムの不確かさ(精度のようなもの)は7×10-14となっており、1 kmあたり70 nm程度の不確かさとなっています。実用上は誤差無しといっても良いほどです。

3.社内の測定器を精度良く使うコツ

不良品を出さないためには、部品の寸法を精度良く測定する必要があります。ここでは、社内の測定器を精度良く使うコツとして、

  • トレーサビリティの確立
  • 定期的な測定器の校正
  • 日常点検
  • 温度管理

を紹介します。

3.1トレーサビリティの確立

測定結果が正しいと証明するためには、トレーサビリティの確立が不可欠です。

トレーサビリティを確立することによって、測定結果にエビデンスが生まれます。これにより、納品先にトレーサビリティの確立を証明すれば、自社で測定した結果を信じてもらえます。

つまり、自社の検査で合格したものを、納品先で合格品として認めてもらいやすくなります

3.2定期的な測定器の校正

測定器は時間経過によって、同じものを測定しても測定結果が変化してしまいます。

時間経過による誤差を少なくするためには、定期的な校正が不可欠です。

トレーサビリティの上位にある測定器を使って定期的に校正しましょう。校正する間隔は測定器によって異なりますが、一般的に1年から数年程度です。

3.3日常点検

測定器は時間経過や温度変化、故障などによって、測定結果が正しくないことがあります。

毎日や測定前後に基準器の長さを測定し、基準器の測定結果がいつもと同じであることを確認します。

基準器は測定器ごとに用意されている場合もありますし、ブロックゲージなどの市販品を代用する場合もあります。大事なことは、毎回同じものを測定し、同じ結果が出ることです。

同じ結果が出ない状態で、他の物を測定しても、正しい測定結果は出ません。

3.4温度管理

全ての物質は温度によって長さが変わります。鉄なら、1mの長さが10℃の変化によって、0.1 mmも変化してしまいます。夏と冬では、0.3 mm程度変化することになります。

長さを測定するときの温度は世界的に20℃と決まっています。取引先と決まりがない場合には、測定室は20℃に近い環境にし、温度変化が少ない状態で測定しましょう。

4.まとめ

長さ測定はモノづくりの基本です。そして、正しい測定を行うためには、トレーサビリティの確立が重要です。

多くの企業では、トレーサビリティを証明するためにトレーサビリティ体系図を保管しているのではないでしょうか。

トレーサビリティの確立を確実に証明するためには、国が認定しているJCSS事業者に校正を依頼する方法があります。JCSS制度を活用するのも良い方法です。

- このコラムを書いた専門家 -

本田 裕

・形状・幾何公差・表面粗さ計測のスペシャリスト
・16年間「精密測定機器メーカー」で機械設計に携わる
・精密工学会論文賞、発明大賞発明奨励賞などを受賞
・特許出願6件、特許登録4件
・メーカーへ測定面のアドバイス、講習会の講師を行う
・計量法校正事業者登録制度 (JCSS)事業の立上げに携わる
・日本工学測定機工業会(JOMA)の技術委員を務める
・2022年~MONO塾専門家