CAEの計算時間を短くする3Dモデルの特徴とは?

投稿日:2022年04月28日

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CAEを活用する際に、設計した詳細な3Dモデルをそのまま解析する人は少ないと思います。

特にアセンブリデータの3Dモデルには大量のボルトが組み付けられていたり、部品同士の境界条件が複雑になってしまうので、何も考えないまま解析すると計算時間が異常に長くなってしまうからです。

CAEで大切なのはトライ&エラーの繰り返しです。

解析を繰り返すことで精度を上げ、より実測に近いデータを得られるため、計算時間が短いほどメリットが大きいと考えられます。

今回は計算時間を短くできる3Dモデルの特徴をいくつかご紹介します。

詳細な3Dモデルは計算時間を長くする

3DCADで設計した3Dモデルは、最初に部品(パートモデル)を一つ一つモデリングしてから、組み立て(アセンブリモデル)へと作業を進めます。

各部品にはモデリング時に材料特性も入力されており、拘束面や荷重などの境界条件さえ設定すれば簡単に解析ができると思われがちです。

しかしながら、完成したアセンブリデータが非常に複雑な構造であった場合、メッシュが切れなかったり、解析の途中でエラーが表示されるなど、様々なトラブルが発生しやすくなります。

特に最初につまずきやすいのが3Dモデルの「メッシュを切る」という行程です。

上記のアイボルトのように、上側は簡単な円形の形状で下側はボルトのネジ部を詳細に再現している場合、メッシュを切るとサイズの大きさに差が出やすくなります。

このようにメッシュサイズの大きさに明らかな違いが出ているのが分かります。

当然ながら、メッシュが細かくなるほど計算時間を必要とするため、ネジ部の詳細な形状は省略して解析を行えば時間の短縮を図ることができます。

またボルトだけでなく、詳細な3Dモデルはメッシュを切る作業の手間が掛かるため、「問題が発生した場所」に注目しながら3Dモデルの簡素化を行う必要があります。

例えば機械全体を支えるフレームにリブを入れて補強した箇所を調べたい場合、その周りにある部品も含めて解析するのか、もしくはリブの補強効果のみを知りたいのかで計算時間が大きく変わります。

もし周りの部品も含めて解析するのであれば、すべての部品のメッシュを切る必要がありますが、シンプルに補強の効果を見たいのであればフレームの部分だけメッシュを切れば良いと思います。

上記の画像は周りの部品を含めた3Dモデルですが、モーターなどの部品を含めてメッシュを切れば膨大な計算時間を必要としますので、あまり効率的ではありません。

不必要な部品を外せば解析モデルが簡素化され、工数の削減を図ることができるのです。

漠然とした簡素化は危険

メッシュがスムーズに切れるようになると、計算時間の短縮のためモデルの簡素化に着手しますが、漠然とした簡素化は解析の目的を見失います。

先にも述べたリブ補強のモデルを極限まで簡素化すると、上記の画像のようになりますが、これではフレーム全体がリブにどの程度影響するかほとんど分かりません。

計算時間が短縮されても、解析結果が正しいものでなければ意味がないため、「残す部品と残さない部品」の振り分けもCAE技術者の仕事になります。

また、フレームの材料特性がすべて同じであれば、一つのパートモデルとして統合することにより計算時間の大幅な短縮に繋がります。

パートモデルとして統合すると、ボルトで締結する箇所や溶接で固定する箇所に境界条件を入力する必要がないため、余計な手間が省けるからです。

ただし、一つのモデルとして統合すると「完全にくっ付いた」状態になるので、後からボルトを模したビーム要素などを入れることはできません。

ビーム要素で締結する解析方法はこちらのコラムをご覧ください。

拘束を強くすると剛性が上がってしまうというデメリットもありますが、もともとボルトで締結しているような箇所は「面と面」で強く密着拘束されているため、試してみる価値はあると思われます。

解析エラーを回避するモデルの調整

3DCADのアセンブリモデルは主に「干渉チェック」に使用されます。組み立て時に他の部品と干渉していれば、完成できずに不良品となってしまうからです。

設計の技術者にとって部品同士の干渉は無視できない問題ですが、CAEを活用する場合でも弊害となる可能性があります。

例えば部品同士が干渉している部分を無理にメッシュを切った場合、その箇所だけ異常にサイズが細かくなり、計算を流した後にエラーとして処理されてしまうこともあるからです。

解析を依頼される時期は試作段階が多く、設計案を2~3つほど渡されることもあるため、稀に他の部品との干渉が起こったモデルが含まれています。

解析の際に、何度も設計者に修正を求めては手間になるため、CAE技術者が直接モデリングを行い、メッシュの切りやすい3Dモデルになるよう調整します。

また干渉の問題だけでなく、試作段階の設計は何かとモデルに不具合が多いため、これらに対処しながら解析モデルを作成するのもCAE技術者の仕事になります。

例えば上記の画像のように、角のアールが不自然な形状をしているとメッシュがスムーズに切れない可能性があるため、こうした箇所の調整もCAE技術者が行うことがあります。

経験を積むと、渡された3Dモデルを見てスムーズにメッシュが切れるか判断できるようになりますが、まだ経験が浅い時期は何処を修正して良いか分からず、エラーが頻出して工数の無駄に繋がってしまいます。

もしスムーズにメッシュが切れない場合であれば、周りにいるベテランの技術者に相談し、どのようにモデルを調整すれば良いか聞いてみましょう。

まとめ

今回ご説明した計算時間の短縮法は、あくまで一例に過ぎません。

実際は様々な問題に対処しながら、より実測値に近い結果を導き出すのが解析の主な目的なので、計算時間の短縮まで考慮した解析モデルを作成できるようになるには、それなりに経験を積む必要があります。

メーカーや使うソフトによってもそれぞれノウハウがあると思いますので、CAEの初心者は過去の解析データやベテランの意見を参考にしながら作業を進めると、効率の良い解析が行えると思います。