力のつり合いを理解して様々な強度計算が出来るようになろう。

投稿日:2022年01月11日

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部品の静的荷重による強度(静強度)を評価する際にはまず、部品に加わっている「力のつり合い」状態を考える必要があります。

従って「力のつり合い」及び力のつり合いを示す図であるフリーボディーダイヤグラムを習得することは、静強度評価者にとってより複雑な強度計算をするための出発点と言えます。

このコラムでは、力のつり合い、及びフリーボディーダイヤグラムの描き方を紹介します。

これから静強度の基礎を勉強したいと思っている方はぜひ参考にしてください。

力のつり合いとフリーボディーダイアグラム

力のつり合いとは?

静強度は、「力がつり合っている状態」、つまり「部品が静止している状態」で部材に負荷された荷重状態から強度を評価します。

ある部材に荷重が働いたとき、その部材を静止するためには、働いた荷重と反対方向に同じ荷重を負荷する必要があります。

下図に綱引きをした時の、綱の力のつり合い状態を示します。

[力がつり合っている状態]

力がつり合っている状態では、左右に同じ10Nの力が働き綱は動きません。

しかしどちらか一方の荷重が増えると、下図のように荷重が増えた方向に綱が動いてしまいます。

[力がつり合っていない状態]

力がつり合う条件

力がつり合う条件には、以下の3つがあります。

①2つの力の大きさが同じ
②2つの力が同一線上にある
③2つの力の向きが反対

静荷重の計算は部材に負荷される力がつり合っている必要がありますが、実際の構造では②の条件が満たせない場合がほとんどです。

その場合②の代わりに次の条件を考慮する必要があります。

④支持部のモーメントがつり合う(回転しない)

下図のように、中心が回転出来るように支持されている(単純支持)、変形しない梁を考えます。

右端に荷重Fが負荷された場合、中心の支持部には反力Fが発生しますが、支持部を中心とした時計回りのモーメントMが発生するため、このままでは梁は回転してしまいます。

この梁の回転を抑えるためには、下図に示すように反対側の左端に右端と同じ荷重Fを負荷する必要があります。

図では両端の荷重による支持部のモーメントが打ち消し合うため、支持部のモーメントは0となり回転しない状態になります。

この状態が、モーメントがつり合う状態です。

フリーボディーダイヤグラム

フリーボディーダイヤグラムとは、構造要素の力のつり合いを示した図です。

荷重を矢印で、反力を矢印に斜め線を引いた図でそれぞれ描画します。

下図に、先に示した綱を10Nで引張っている時のフリーボディーダイヤグラムを示します。

フリーボディーダイヤグラムを描くことにより、部材毎に働く荷重状態の理解が容易となります。

フリーボディダイヤグラムの描き方

フリーボディーダイヤグラムは以下の手順で描いていきます。

(1)対象構造を構造要素に分解する

一般的には強度評価は部材毎に行われるため、構造要素は1部品単位で分解します。

(2)構造要素がそれぞれどのような荷重を受け持つのか考える(せん断、引張、曲げなど)

構造要素毎に「取りやすい荷重」は決まっています。部材毎に取るべき荷重を想定することで、より精度の高い荷重分布の予測が出来るため、無駄のない設計が可能になります。

(3)負荷される荷重を把握する

⇒対象構造に負荷される荷重に対して、大きさ、方向、種類(集中荷重、分布荷重)、負荷範囲、位置などを把握します。

(4)構造要素の支持条件を考える(単純支持、固定端)

静強度解析における支持条件には、全くモーメントを取らない「単純支持」か、完全にモーメントを取る「固定端」しかありません。しかし、実構造ではこの中間の回転力を取るため、適切な支持条件を指定しないと実現象と異なる荷重状態を計算することになってしまいます。

(5)構造要素毎に力のつり合いを図示する

負荷される荷重・モーメントを矢印、反力には斜め線を入れます。

トラスを用いたフリーボディーダイヤグラムの例

下図に簡単なトラス構造におけるフリーボディーダイヤグラムを示します。

トラスは荷重を軸方向の力しか取ることの出来ない構造要素です。

各支持点は単純支持となります。支持点1には2つの棒要素が結合されているため、上向きの反力を取ることが出来ます。一方で、支持点2は横向きの棒要素だけが結合されている状態のため、水平方向の反力しかとることが出来ません。

トラスのフリーボディーダイヤグラムには、結合点における力のつり合いを描く場合と、要素毎の力のつり合い描く場合の2つの描き方があります。

ただし、強度評価の際には部材毎の力のつり合い状態を考えるため、要素毎の力のつり合いを考える方が一般的です。

初心者の方は、両方の描き方を混在しがちですので注意が必要です。

フリーボディーダイヤグラムを描く時には、反力の大きさや矢印の向きが分かっている必要はありません。方向が逆の場合、計算した結果が負の値となります。

力のつり合い及びフリーボディーダイヤグラムの実用例

航空機の力のつり合い

下図は飛行機が定速飛行をしている時に受ける荷重のつり合い状態を示します。

図では、翼が受ける上向きの力である揚力と、機体全体が受ける下向きの力である重力、及び機体の回転中心に働くモーメントがつり合っています。

力のつり合いを習得することで、このような複雑な構造物の強度評価が出来るようになります。

締結部材のフリーボディーダイヤグラム

強度評価部材は、綱引きのように宙に浮いている訳ではなく、他の部材に締結されています。

したがって部材にある荷重が負荷されると、締結している他の部材が「その部材を動かなくしようとする反対方向の力:反力」を発生させます。

静強度評価をする場合は、締結している部品にも反力と同じ力が発生するため、荷重が負荷された部材と同様に締結部材の強度評価も必要です。

強度評価初心者の方はこの「締結部材」の強度評価を忘れることが多いので、特に注意が必要です。

フリーボディーダイヤグラムを習得することで、複数の部材で構成された難解な荷重状態でも、簡単な要素毎の荷重状態に分解することが出来るようになるため、より複雑な機械の強度計算が可能です。

強度計算書作成講座ではクレーンやリフターなどの構造部材の強度評価を、フリーボディーダイヤグラムを活用して解決する手順を学ぶことが出来ます。

強度計算の経験豊富な講師の方が分かりやすく教えてくれるので、強度評価初心者で力のつり合いを理解できていない方はぜひ利用してみましょう。

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