「固有値解析とは?振動問題の解決をサポートする解析」

投稿日:2022年04月11日

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振動問題を検討する方法の一つに 『固有値解析』 があります。

別名として『モーダル解析』とも呼ばれていますが、今回は固有値解析で統一し、この解析手法について簡単に説明したいと思います。

近年において、固有値解析は3DCADなどに含まれるCAEのソフトウェアを活用して解析することが一般的となりました。

しかしながら、CAEを活用するタイミングや効率的な解析を行うにはどうすれば良いのかなど、色々と疑問になることも多いかと思われます。

こうした疑問を少しでも解消できるよう、今回の記事が皆さんのお役に立てば幸いです。

機械設計における固有値解析の役割

機械製品には様々な「振動問題」が発生します。

一般的な振動問題とは、騒音レベルが人間の不快感に繋がるものや、機械製品の働きに支障をきたすような場合に問題となり、これらは設計の段階から注意する必要があります。

最悪のケースとして、持続的な振動の発生で機械が故障を起こし、大事故へと発展する可能性すらあるのです。

機械要素の強度を検討する『応力解析』とは違い、振動は問題の発生する箇所の特定が難しく、予期しない振動現象に設計者が悩まされることも多々あります。

実際に試作品を作って振動試験(ハンマリング試験)を行う方法もありますが、何度も作れば多額の出費を伴うため、あまり実用的ではありません。

そんな時に活躍するのが、CAEによる固有値解析です。

固有値解析とは、構造物の固有振動数や固有モードを求めるもので、特定の周波数帯域でどのように振動するか調べる解析となります。

上記の画像は、薄い鉄板モデルで固有値解析を行った結果となり、各周波数における変形の様子を見ることができます。

ただし、固有値解析では応力解析のように実際の変形量を確認することはできません。

ここで注目すべきなのは変形量ではなく、各モードにおける周波数(固有振動数)の値です。

また、この解析では外力が加わらず減衰も考慮に入れないため、有限要素法による運動方程式の外力項、減衰項を省略して解を導き出しています。

ここでのMは質量マトリクス、Kは剛性マトリクスです。

…と置けば次式のような固有方程式が得られます。

上式を解くとj 次の固有角振動数(ω_nj)、固有ベクトル(U_j)がそれぞれ実数解として求めることができ、これを『実固有値解析』と一般的に定めています。

CAEによる固有値解析は、この実固有値解析の数式を活用したものです。

※減衰を考慮したものを『複素固有値解析』と呼び、自励振動など特殊なケースで用いられることもありますが、ほとんどは実固有値解析で行っています。

共振における質量と剛性の関係

CAEを活用した固有値解析の結果において、各周波数の帯域を『共振周波数』とも呼んでいます。

文字通り「共振を起こす可能性のある周波数」です。

共振は非常に厄介なもので、部品の質量や材料の剛性(ヤング率)、形状による剛性といった様々なものが要因となって発生します。

例えば楽器の太鼓は、大型トラックのエンジン音を拾って皮の表面がブルブルと震えることがあります。

これはエンジンから出る音(振動)と太鼓との周波数が合って共振しているからです。

太鼓は良い音を出すための形状、または材料を使用していますから、非常に音が出やすいという特徴を持っています。

しかしながら、設計した機械部品が音の出やすいものでは大問題となります。

特に自動車などは車内の静音性を保ちたいため、エンジンや車体が「共振や騒音の発生しない」形状を目指して、技術者は設計作業を進める必要があります。

ただ先にも述べた通り、強度の弱い箇所は何となく想像はできても、共振の起こりやすい箇所を特定するのは容易ではありません。

そこでCAEを活用し、Aの部品が持つ共振周波数とBの部品が持つ共振周波数が互いに重ならないよう、材料の選定や形状の変更などで調整します。

固有値解析では部品の質量剛性が大きく影響します

実固有値解析の数式で、質量マトリクスと剛性マトリクスが含まれているのは、この二つが結果に作用するからです。

剛性とは「変形のし難さ」の度合いなので、例えば部品の軽量化の設計を行うと同時に剛性も下がり、それが要因で他の部品との共振周波数が重なり、騒音へと繋がる可能性もあります。

また、部品と部品との連結部分では騒音も出やすく、振動を伝えてしまう役割もあるため、連結を担う部品の設計には特に注意が必要です。

これらの共振は、過去の実測データや技術者の経験に頼りながら避けることが一般的ですが、予期せぬ共振を起こさないためにも、CAEを活用するのも一つの手だと考えられます。

共振を避けるための設計を目指して

「共振を起こさない設計」を実現するのは非常に難しいですが、実際は致命的な問題(振動による疲労破壊や過度の騒音など)を引き起こすような振動に注目する必要があり、これらの問題は各メーカーによって対策のノウハウがある程度蓄積されています。

回転機械の強制振動や自励振動の対策についても、

  • 部品の補強および材料・形状剛性のアップ
  • 軸受けの変更
  • カップリングの交換
  • アライメントの調整

などのノウハウがあり、様々なパターンが存在します。

CAEによる固有値解析では、前のモデルから大幅な軽量化や形状の変更を実施するなど、設計時に明らかな変化が起こる際に実用性を発揮します。

これは応力解析でも同じなので、設計の技術者はCAEのソフトウェアを気軽に活用してみると良いでしょう。

CAEはトライ&エラーの繰り返しが大切となり、数をこなすことで絶大な効果を発揮します。

製品化している部品でハンマリング試験を行い、3Dモデルを解析して照らし合わせてみるのも良い練習になります。

実測値と固有値解析の結果が乖離している場合、境界条件の設定が問題となっている可能性もあるため、ベテランのCAE技術者に意見を求めることも時には必要になります。

こうした解析ノウハウの蓄積により、効率的な設計を行うことが可能になるのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

強度を検討する応力解析とは対照的に、振動問題を予測するための固有値解析は、初心者にとって分かり辛いのが難点です。

実際は、試作段階で振動問題が起きた際に解析を行うという流れが一般的ですが、その流れを逆にすることがCAE技術者にとっての命題であり、大幅なコストカットにも繋がります。

そのためには、解析ノウハウの蓄積が財産となり、効率的な設計への近道になるのです。

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