窒化処理とは|処理方法の種類やメリット・デメリットを紹介

投稿日:2022年06月30日

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窒化処理は鉄鋼製品の強度を上げるのに効果的な加工方法ですが、どんな特徴・メリットがあるか気になる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、窒化処理の概要や種類、他の加工方法と比較した際のメリット・デメリットについて詳しく解説します。

窒化処理とは

引用元:株式会社 シンセイ

窒化処理は、鉄鋼製品における表面硬化手法の一つです。鋼に窒素を浸漬させ、表面に薄い窒素化合物の硬化層を作ることで、鉄鋼製品の硬度を高めます。

鉄自身は窒素化合物となっても強度は大きく変わりません。しかし、アルミニウムやクロム、モリブデンなどの含有金属や、炭素などが窒素化合物となると鋼表面で大きく硬化するため、結果的に鋼の強度も上がります。

また、窒化処理は500℃程度という低い温度で表面処理を行うため、鋼がほとんど変形しないことから、処理が簡単で寸法精度を高く保てるのが主な特徴です。

高温の熱処理と比べると硬化層が薄いため、強度が不十分となる場合もありますが、耐摩耗性、耐疲労性、耐食性などを高めるには有効な表面処理方法と言えます。

窒化処理の種類

窒化処理を行う上では、求める強度やコストに応じてさまざまな処理方法を選択できます。ここでは主な処理方法を紹介します。

ガス窒化

引用元:パーカー熱処理工業株式会社

ガス窒化は、アンモニアガス中に鋼を入れて500℃程度に加熱し、数十時間をかけて窒素を浸漬させる方法です

アンモニアは鋼の表面で窒素と水素に分解され、活性窒素が鋼の表面に浸漬します。活性窒素は鋼内部のアルミニウムやクロムなどと反応し、強度の高い窒素化合物となります。

ガス窒化は他の処理方法と比べて処理に時間がかかるという欠点がありますが、その分0.1mm程度と窒化層が厚く、高い強度が得られます。

一般的には高級鋼材の追加処理に用いられますが、窒素化合物を作る不純物が含まれていない場合は強度の向上は見込めないことに注意しましょう。

ガス軟窒化

引用元:日新化熱工業

ガス軟窒化は、アンモニアと二酸化炭素の混合気体中に鋼を入れ、550℃程度に加熱して窒化処理を行う方法です

ガス窒化と名前こそ似ていますが、実際は後述する塩浴窒化(タフトライド)処理の代替として考案された方法であり、硬化層の形成方法は全く異なります。

表面処理時間は2時間程度で、窒素ガスを使えば冷却にも時間がかからないため、大量生産したい場合や、加工コストを下げたい場合に有効です。

炭窒化物の厚みは10μm程度と薄く、ガス窒化に強度は劣りますが、自動車部品を始めさまざまな量産部品に用いられています。

アルミニウム、クロムなどの金属を必要としないので、炭素鋼など、含有金属の種類が少ない低級鋼材に向いた処理方法です。

タフトライド処理

引用元:TS TUFFTRIDE株式会社

タフトライドは、液体を用いて窒化処理を行う方法です。塩化ナトリウムなどを主成分とした塩浴炉(ソルトバス)に鋼を入れて約500℃に加熱し、1〜3時間ほど浸漬させて窒化処理を行います

作られる硬化層はガス軟窒化と同じ10μm程度の炭窒化物であり、ねずみ色の見た目になります。

塩浴にシアン酸塩などの有害な薬品を使うので、使用の際は安全対策が必要というデメリットがあり、最近ではガス軟窒化法を採用する企業が多いです。

窒化処理のメリット

続いて、窒化処理を行うメリットを解説します。

処理が簡単

窒化処理は、鋼の表面に窒素を浸漬させるだけでよいため、通常の熱処理と異なり焼入れや焼き戻しを行う必要がありません。特にガス軟窒化であれば加工時間も短いため、コストや量産性に優れています。

また、窒化処理はガスによる加工がほとんどなので、ガスが届く範囲内であれば内径や複雑な形状の部品でも加工が簡単に行えるのもメリットです。

寸法精度が良い

窒化処理は寸法精度を高く保てるメリットも有しています。窒化処理は低温で行えるので、鋼の組織が変化せず、形状が変わらないまま硬化膜を作ることが可能です。

追加工や寸法の変化を織り込んだ設計が必要ないため、加工が簡単になりコストも低く抑えられます。

耐摩耗性・耐食性に優れる

窒化処理によって生成される窒化層は硬度が高く滑らかなので、摺動性がよく耐摩耗性、耐かじり性に優れています。表面付近に圧縮残留応力が発生するため、疲労強度も高いです。

耐熱性にも優れており、焼入れのように、処理後の鋼に熱を与えても硬度が下がりません。そのため、幅広い用途の鉄鋼製品に使いやすいです。

窒化処理のデメリット

メリットが多く採用されることが多い窒化処理ですが、デメリットもあるため加工の際には注意が必要です。主なデメリットを紹介します。

硬化層が薄く、圧力に弱い

焼入れなどの加工方法ではミリ単位で硬化層が生じますが、窒化処理による硬化膜は、10μm以下と薄いため、衝撃や圧力に弱くなるという弱点があります。

特に、高い面圧負荷のかかる用途では脆さが問題となるため、別の表面処理手法も検討しましょう。

また、窒化処理だけでは強度が足りない場合、高周波焼入れを追加で行うという対策も有効です。

高周波焼入れにより硬化層の深さが増大するので、更に硬度が上がるだけでなく、衝撃や圧力への耐性も高くなります。

硬度が高く追加工が難しい

窒素化合物は硬度が高いため、処理後の追加工が難しいのもデメリットです。

常温で硬度が高いのはもちろん、熱を掛けても硬度が下がらず、逆に母材の鋼が軟化して変形する原因となりかねません。

追加工を行わずに済むよう、処理前にしっかり形状の検討を行っておきましょう。

まとめ

今回は、窒化処理方法の種類やそれぞれの特徴、窒化処理を採用することによるメリット・デメリットを解説しました。

窒化処理は低温で加工でき、比較的簡単に硬度や耐摩耗性、耐かじり性などを高められることから、非常に有用な表面処理方法です。

硬化層が薄く衝撃・圧力に弱いデメリットがあるものの、高周波焼入れと併せて行うことで対策も可能なので、鉄鋼製品の表面処理で悩んでいるのであれば、ぜひ候補として検討してください。