【機械設計者必見】寸法公差と幾何公差を意識すれば良いものが造れる

投稿日:2022年3月4日

設計図面で補助的な役割をしている寸法公差や幾何公差ですが、上手く使えているでしょうか?

ほとんどの部品は、寸法公差や幾何公差がなくても正常に機能するかもしれません。形状が重要で寸法はラフで良かったり、少し大きめの穴を開けておけば取付位置が多少ずれても問題ない場合も多いと思います。

しかし、歩留まりを上げたり、性能を向上させるには精密な加工が必要になる場合があります。全ての部品を精度よく作れば良いと思うかもしれませんが、精度良く作るにはコストがかかり現実的ではありません。

そこで、設計者は加工者に対して、どこにコストをかけ、どこは手を抜いて良いかを指示します。その方法のひとつが公差の記載です。公差を記載することによって、

  • ラフで良い場所はコスト優先
  • しっかり管理したい場所は精度優先

というように設計者の意図を加工者に伝えることができます。

寸法公差と幾何公差の違い:実例で紹介

寸法公差と幾何公差を使いこなす前に、寸法公差と幾何公差について解説します。

寸法公差

寸法公差とは指定した寸法が許される寸法範囲を示しています。± 0.1 mmや、0~+0.1 mmというように範囲を指定します。±0.1 mmのように均等振り分けの場合は、2段に分けずに記載します。

0~+0.1 mmのように均等振り分けではない公差を記載するときは、上図のように数値が大きいほうを上段に記載します。寸法公差は距離の他に、穴の大きさや角度でも使われます。

実は、指示をしていない寸法にも寸法公差はあります。指示されていない寸法は、JIS B 0405の普通公差を適用します。普通公差には、精級、中級、粗級、極粗級があり、会社や業種によってどれを採用するかは変わりますが、中級が多いと思います。

どの級を使用しているかは部品図の枠に記載されていることが多いので、確認してみましょう。その寸法より、狭い範囲を要求するのであれば寸法公差の記載が必要です。


JIS B 0405-1991より

幾何公差

幾何公差は、指定した面の形状や、平行、位置などが許容できる範囲を示しています。寸法公差より細かい指示が出せるので、加工者に設計者の意図を正確に伝えられます。幾何公差の大きさによって加工条件を変えたり、加工機を変えたりして対応してもらえるからです。

幾何公差を入れるとほとんどの場合、コストが上がるので、むやみやたらに入れるのではなく、本当に必要なところだけ記載します。どこにどのくらいの数値を入れるかが設計者の腕の見せどころです。

幾何公差の中にはデータムという基準面を指定するものもあります。データムが必要ない幾何公差は、真直度、平面度、真円度などの「形状公差」です。データムが必要なものには、

  • 平行度や真直度などの「姿勢公差」
  • 同心度や同軸度などの「位置公差」
  • 円周振れと全振れの「振れ公差」

の3種類があります。

詳しくは、JIS B 0021「製品の幾何特性仕様」の「表1 幾何特性に用いる記号」をご覧ください。

寸法公差だけでは不十分。幾何公差を活用しよう

幾何公差を指定せず、寸法公差だけでは不良品が出てしまう場合があります。ここでは、具体的な例を挙げて幾何公差の重要性を紹介します。

例えば下図のような図面を見たら、どのような部品を期待するでしょうか。

多くの人は、下図のような部品ができると思うのではないでしょうか。

加工者と意思疎通ができていて、間違いなくこの部品ができてくれば良いのですが、実際はもう少し複雑です。加工者が上図のような部品を作ろうとしても、下図のような部品ができてしまう場合があります。しかもこの部品は検査で合格になる可能性が高いです。

図(a)は20 mmに対して、長いほうも短いほうも寸法公差の範囲にしっかり入っています。このような部品ができていても合格になります。また、(b)のような部品ができてしまっても合格になる可能性は十分にあります。

なぜかというと、このような部品の寸法を計測する場合、通常ノギスが使われます。ノギスでは一番長いところの寸法が計測されます。よって、ノギスでの計測結果は19.95 mmになり、合格品として入荷されます。使用用途によっては、問題ない場合もありますが、場合によってはスキマができてしまったり、部品が傾いてしまい不良の原因になります。

このようなことが起こるのは、加工者のせいではありません。部品図の指定があいまいだからです。もし、左右の辺を平行にしたいのであれば、上図(c)のように平行度を追加します。もし、直角も必要であれば上図(d)のように直角度を追加する必要があります。

幾何公差を追加した場合、ノギスでは測定できないので、他の測定器での測定が必要になります。幾何公差を指示するときは、どのような測定器で測定するのかも検討しておいた方が良いでしょう。

加工者が持っていない測定器でないと測定できない場合があります。また、測定はできるけど、治具が必要で思った以上に製造コストがかかる場合があるからです。

部品代を下げるために、設計を工夫して加工が簡単な部品にできないかを考えることも重要です。

まとめ

寸法公差と幾何公差は、設計者の意図を加工者に伝える重要な要素です。設計初心者のうちは、先輩たちの図面を真似して設計することも多いと思います。

しかし、新製品の設計を任されるようになると、前例のない部品を設計する機会が増えます。そのようなときに歩留まりの悪い部品や、やけにコストがかかる部品ができないように寸法公差と幾何公差を上手に使いましょう

設計者の意図を伝える方法として、表面粗さで加工機を指示するという方法もあります。加工機を指示できれば、ある程度精度がわかるので、あえて幾何公差を記入しないこともできます。表面粗さについては後日紹介したいと思っています。

  
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- このコラムを書いた専門家 -

本田 裕

・形状・幾何公差・表面粗さ計測のスペシャリスト
・16年間「精密測定機器メーカー」で機械設計に携わる
・精密工学会論文賞、発明大賞発明奨励賞などを受賞
・特許出願6件、特許登録4件
・メーカーへ測定面のアドバイス、講習会の講師を行う
・計量法校正事業者登録制度 (JCSS)事業の立上げに携わる
・日本工学測定機工業会(JOMA)の技術委員を務める
・2022年~MONO塾専門家